加茂水族館を後にして、タクシーは田園風景の中を走る。
窓の外には、刈り取り前の稲が風に揺れ、傾きかけた陽を受けて、やさしく金色に光っていた。
しばらくして、田んぼの真ん中に浮かぶように、スイデンテラスの建物が現れる。
ガラスの壁が空の色を映し、一日の終わりを静かに受けとめているようだった。
ーーー
夜。
レストラン〈Moon Terrasse〉の扉を開けると、木の香りとあたたかな照明が迎えてくれた。

窓の向こうに静かな田園の闇が広がっている。

最初の一皿は、お米を使ったアミューズ。
香ばしい衣の中から、ほのかな甘みが立ちのぼり、この土地の実りをやさしく感じさせてくれる。

続く季節の鮮魚のマリネは、やわらかな酸味のドレッシングとともに。
ひとくち味わうと、昼間に見た海の青さがふと蘇るようだった。

魚料理は、庄内産の真鯛のポワレ。
香ばしい皮目に焦がしバターの香りが重なり、酒粕のまろやかなソースがその甘みをやさしく包む。
グラスの白ワインが静かにその余韻を広げた。


メインは、庄内鴨のロースト。
ナイフを入れると、ほのかな赤がのぞき、果実の酸味と鴨の香ばしさ、そして赤ワインの深みが、口の中で静かに重なっていく。


続いて、庄内産つや姫のおむすびと地魚の出汁。
出汁のやさしい香りがふわりと広がっていった。

デザートは、リンゴとローズマリーのタルト。
アーモンドのフロランタンが添えられ、ほろりと崩れるタルト生地に、ハーブと果実の香りがやわらかく重なる。

食後のコーヒーを飲みながら、窓の外を見ると、田んぼの向こうにぽつりと灯りが見えた。
その光が、夜の静けさの中でゆっくりと揺れていた。
