新潟駅で特急「いなほ」に乗り換える。

新幹線からの乗り換え時間はわずかで、シートに腰を下ろすと、列車は静かに動き出した。
街の風景がゆっくりと遠ざかり、やがて窓の外は穏やかな秋晴れに変わる。
陽ざしが車内を満たし、静かな時間が流れはじめた。

村上を過ぎてしばらくすると、左手に日本海が広がった。
波の線がかすかに光を拾いながら、静かに岸へと寄せている。
お昼過ぎ、鶴岡駅に着く。


奥羽本線のホームは驚くほど長い。
かつて、いくつもの車両を連ねた客車がこのホームに出入りしていたのだろう。
その記憶のかけらのような空気が、今も静かに漂っていた。

駅前からタクシーに乗る。
トンネルを抜け、小さな集落を過ぎると、海が見えた。
潮風が窓から吹き込み、しばらく進むと、白い建物が見えてきた。

館内に入ると、空気が静まり、静寂が満ちていく。
水槽をいくつか抜けた先、そこからはクラゲの世界。

小さな体がふわりと揺れ、音のない水の中で、静かに生きているようだった。
薄い青、乳白色、そして光をまとったように揺らめく透明。
形も動きも違うのに、どのクラゲもただ、「漂う」ということにすべてを委ねている。


やがて足もとがわずかに暗くなり、目の前に「クラゲドリームシアター」が広がった。
直径五メートルの大水槽の中を、無数のミズクラゲが静かに漂っている。

一面に広がるクラゲの群れが、上も下もない水の中で、ゆっくりと浮かび上がったり沈んだりしている。
重力という言葉が、ここでは意味を失っていた。
それを見ているうちに、自分までもが水の中に溶けていくようだった。
ただ、残ったのは光だけ。
それは、さっき車窓から見た海の色と同じだった。
鶴岡市立加茂水族館
