名古屋の駅ビル・ジェイアール名古屋タカシマヤの赤福茶屋で、旅の始まりをゆっくりと味わう。
あたたかい番茶とやわらかなこし餡の甘さが、心をふっとほどいてくれた。

ひと息ついて、名鉄の地下ホームへ。
30分ほど電車に揺られ、犬山駅へ降り立つ。
改札を出てしばらく歩くと、観光客でにぎわう本町通りに出た。
古い町家が並ぶ道を進みながら、粕漬け専門の店「香味茶寮 壽俵屋 犬山井上邸」でいただいたのは、味醂粕に漬け込まれた魚の定食。
ほどよい塩気とやわらかな旨味が、ゆっくりと広がっていく。

食事を終えて通りに戻ると、しょうゆの焦げる香りが風に乗って流れてきた。
焼きたてのみたらし団子を一本。
薄い飴色のたれが、香ばしく広がった。

やがて、城下町の通りの奥に、犬山城の天守が顔をのぞかせた。
白い壁と黒い下見板が、木々の緑の上に静かに浮かんでいる。

織田信長の叔父・信康が築いたと伝わるこの城は、現存する日本最古の木造天守のひとつ。
天守の最上階からは、ゆるやかに流れる長良川が見える。

川を隔てた向こうは岐阜県。
季節の光を受けて、川面が静かにきらめいていた。
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